うる君キミは弱過ぎる(1)
うる君は28歳にもなるのに、まるで小学生のようなちんちくりんの身体で私の前に現れた。
資本金ゼロで始めた私の経営する飲み屋が、何故か大ヒットして、ビルの廊下に行列が出来る店になってしまった。
並んで待っているお客さんに時々挨拶に行くんだけど、ゴメンネ、もうちょっと待っててね、って言うだけなんだけど、お客さんはそれだけでもちょっと喜んでくれるのね。
その行列の後ろの方に、小さい男の子が凄く大きなリュックを背負ってもじもじ立っていたの。
それが、うる君。
うる君がこどもじゃない事は直ぐに解ったわ。
だってスーツを着ているんだもの。
スーツにでっかいリュックを背負っているうる君は、なんだか可愛かった。
その日私は、何度も廊下に出てうる君がまだ並んでいるかどうか確かめに行ってた。
途中で待ちくたびれて帰る人もいるからね。
お店は椅子が11席しかなくて、満席状態。その後ろに壁にもたれて飲んでいる人もいるし、カーペットに座って飲んでいる人もいるの。
終いには入りきれないから、カウンターの中に入って貰って私の仕事を手伝って貰う。でも、廊下で待っている人は静かにしてなくちゃいけないのよね。
私のお店が繁盛し過ぎて、隣近所から苦情がきたり、嫌がらせをされたりした事があったからなのよ。
店のドアには「廊下ではいい子にしててね」と書いた貼り紙がしてあるんだけど、お店に来た事がない俗に言うイチゲンさんは、時々コンビニとかで買ってきたお酒を飲み始めて騒ぐ事があるのよ。
だから、イチゲンさんもお断りにしちゃった。
つまり、私のお店は会員制。
でも、うる君はどう見ても1人で立ってるの。
誰ともお話していないし、下を向いたままずっと待っているの。
でも、こんなに大人しそうな子なら入れてもいいかな?
飲み始めた途端に騒ぎだしたらどうしよう?
誰かが止めてくれるから大丈夫かなあ。
色んな事を考えていたら、深夜近くなってようやくうる君が店に入れる順番が回ってきたの。
飲み屋だから回転率がすこぶる悪いって訳ね。
そしたらね、「僕、終電で帰るのでまた来ます」って言って帰っちゃったの、うる君。
凄く残念だったな。
でも、うる君はまた次の日も来てくれたのね。
その日は、30分早く来てくれたから何とか間にあったらいいな、なんて思いながら廊下を覗きに行ったら、調度うる君が帰るところだったのよ。
思わず声をかけちゃった私。
「お客さん帰っちゃうの?」